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魔法のカクテル 9

Author: 煉彩
last update Last Updated: 2025-08-25 21:05:37

 久し振りにアルコールを飲んで、急に走ったからか足元がふらつく。

 エレベーターから降り、もう一度

「すみません。ありがとうございました。本当にここで結構ですので」

 加賀宮さんから強引にバッグを奪い、駅方面へ歩き出そうとした。

 数歩歩いたところで溝にヒールがはまり、転びそうになったところを加賀宮さんが腕を引っ張り助けてくれた。

「あ……りがとうございます。すみません」

 どうして?

 カクテル二杯飲んだだけでこんなに……。

 相当お酒に弱くなってる。

「大丈夫ですか?」

 加賀宮さんはそのまま腕を支えてくれた。

「ちょっと休んだ方がいいと思います。僕のオフィスが近くにあるんで、そこで休憩しましょう」

 オフィス?休憩?

「あの……」

「そんな状態の女性を一人で帰せませんよ。ケガでもして、旦那さんに怒られたら困るでしょ?」

 何も言えなかった。

 酔って転んだなんて言ったらどうなるか。

 でもこの状況はマズい。

 知り合いにでも見られたりして、孝介にバレたら。一人で帰らなきゃ。

「あの!」

「ちょうど車が来たので」

「えっ?」

 目の前に黒いセダンが止まった。

「お疲れ様です」

 運転席から一人の男性が降りて来た。

 私と加賀宮さんと同じくらいの年齢。

 髪の毛は襟足まであって、目は大きくて可愛らしい顔立ちをしている。

「お疲れ様。ごめん、彼女を車に乗せるのを一緒に手伝ってくれる?酔ってしまったみたいで」

「かしこまりました」

 彼は、加賀宮さんの言葉に何も疑問を抱いていないようだった。

「えっ!ちょっと!」

 二人がかりで強引に車に乗せられた。

「加賀宮さん!」

「運転しているのは、僕の秘書なんだ。怪しい人じゃないから安心してください」

 この状況で安心なんてできない。

 どうしよう、ここからドアを開けて無理やり降りるわけにもいかないし。

 あたふたしているうちに、どこかのビルの地下駐車場に車は駐まった。

「着いたよ」

 そう言われ、車から降りる。

 ここ、どこ?

 後部座席にはスモークがかかっていて、外があまり見えなかった。

 そんなに走ってないから都内のはずだ。

 土地勘がない。

 無理やりここまでして連れて来るって、もしかして危ない人?逃げた方がいいの?

 相手は男性二人だ、逃げられる自信がない。

 さっきまでは良い人だと思っていたのに。

 不信感と恐怖が生まれる一方だ。

「そう怖がらないで」

 加賀宮さんに腕を引かれ、オートロックの建物の中に入る。

 エレベーターに乗り、秘書さんが二十五階のボタンを押した。

 他に誰も乗ることはなく、二十五階で止まり、三人で降りる。

 いくつか部屋があったが、とある一室の前に案内され、秘書さんが数字を入力し、部屋のカギを開けた。

 三人で入るのかと思っていたけど

 「ありがとう。亜蘭あらん。ここで大丈夫だから。夜遅くに申し訳なかった」

「いえ。では、失礼いたします」

 亜蘭と呼ばれた秘書さんは扉を締めた。

 加賀宮さんは一体どういうつもりなの?

 彼の考えていることが全然わからない。

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